わが子を鉄湯に投じて成った吉備津神社の鐘
どんな伝承か
芦品郡新市の吉備津神社には、梵鐘をめぐる人柱の伝えがある。鐘を鋳る費用を集めて歩いていた勧進僧が貧しい家を訪ねると、子を抱いた母親が、差し出せる物は何もないのでこの子をさしあげますと答えた。やがて寄付も集まって鋳造は順調に進んだが、最後に子ども一人が入るほどの小さな穴がどうしてもふさがらない。神に占うと、あの貧しい女と約束した子を入れるための穴だとのお告げが下った。こうして幼子は燃えさかる鉄の湯の中へ投げ入れられ、鐘はようやく仕上がった。わが子を炉に投じた母は、この子は果報者で必ず成仏すると言い、自らその鐘を最初に撞いたという。
原典より
かくて小児は吹きさかる鉄湯の炎の中に投げこまれて、ついに梵鐘は完成したのである。—— 広島県史 民俗編――伝説の分布(広島県(編)・広島県史) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
広島県史 民俗編――伝説の分布(広島県(編)・広島県史)
『広島県史 民俗編――伝説の分布』は、広島県が編んだ県史民俗編のうち、「休養と娯楽」の部に置かれた「伝説の分布」の章である。八幡信仰にかかわる聖蹟伝説や炭焼長者、厳島をめぐる石神やうつぼ船の伝説、和泉式部・虎御前・菖蒲前を語り歩いた巫女の伝説、人柱や竜蛇の伝説などを、『芸藩通志』『福山志料』などを引いて論じる。「八幡信仰の流れ」「厳島伝説の周辺」「巫女と伝説」「県北の伝説」の四節からなり、伝説の名を見出しに立てて所在地とともに述べる。