北山科の校倉で女を食われた業平
どんな伝承か
右近中将在原業平はたいへんな色好みだった。思いを寄せた女をひそかに盗み出したものの、隠しておく所がなく、北山科のあたりの人の住まない荒れた山荘へ連れて行った。母屋は床板もなく入れないので、そばの大きな校倉に畳を一枚敷いて女と伏していると、にわかに激しい雷が鳴りだした。中将は太刀を抜き、女を後ろへ押しやって身構えていた。やがて雷がやんで夜が明けたが、女の声がしない。振り返ると、女の頭と着ていた衣だけが残っていた。中将は恐ろしさのあまり、着物も取らずに逃げ去ったという。
原典より
やがて雷も止み夜もあけたが女の聲がしないので怪んでよく見ると女の頭と衣類だけが殘つてゐた。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。