あばら倉で女を一口に食った鬼
どんな伝承か
『伊勢物語』第六段。昔ある男が、長く思いを寄せても手に入らなかった女をようやく盗み出し、暗い夜に芥川という川沿いを連れて逃げた。女は草の上の露を見て、あれは何かと尋ねる。夜は更け、雷が激しく鳴り雨もひどく降ったので、男は女を荒れた倉の奥に入れ、自分は弓を負って戸口を守った。ところが鬼のいる所とは知らず、女は一口に食われてしまい、悲鳴も雷鳴にかき消された。夜が明けると女の姿はなく、男は地団駄を踏んで泣いた。後の書き加えでは、実は二条の后を兄たちが取り返したのを鬼と言ったのだという。芥川は摂津の三島郡の川とも、架空の川ともみられる。
原典より
そうした夜に、得がたい女をやっと盗み出して「あばらなる倉」にかくすのだが、その女は結局、鬼に一口で食われてしまうのだ。—— 日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の幽霊たち ― 怨念の系譜(阿部正路)
『日本の幽霊たち――怨念の系譜』は、阿部正路が書きおろした日本文学の幽霊論で、刊行は日貿出版社が手がけた。『竹取物語』『源氏物語』『平家物語』などの物語、『日本霊異記』から『遠野物語』『聴耳草紙』に至る説話、能と歌舞伎、さらに三遊亭円朝・泉鏡花・森鴎外・小泉八雲らの近代の作品に現れる幽霊をたどり、怨念の系譜として読み解く。第一章で幽霊の時・季節・姿・場・目的を論じ、終章で稲生屋敷の物怪や百鬼夜行など幽霊の周辺に及ぶ。