東庁で鬼に食われた弁官
どんな伝承か
東庁で公事が行われた夜、ある史は弁より遅れて参ったことを恐れ、急いで東庁へ向かった。中をのぞくと灯は消え、人の気配もない。弁の雑色たちに尋ねると、殿はとうに東庁にお着きだと言う。下部に火をともさせて入ってみると、弁の座には血に濡れた頭と髪がところどころ残り、笏や沓にも血がつき、畳には血がおびただしく流れていた。そばの扇には事の次第が書きつけてあった。ほかには何も見当たらず、夜が明けると人々が集まって驚き、鬼が弁を食ったのだと言い合った。それ以来、東庁では朝庁を行わず、西庁で行うようになったという。
原典より
史此は何にこ驚き怖れて傍を見れば笏沓も血付て有り亦扇有り。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。