神泉苑で鬼を退けた尊勝陀羅尼
どんな伝承か
色好みの若殿が、供の小舎人童を連れて夜歩きをしていた。美福門の前で、東の大宮の方から大勢が火をともして来るのに出会い、童の勧めで開いていた神泉苑の北門に入り、柱のもとにうずくまった。戸の隙間からのぞくと、それは人ではなく恐ろしい姿の鬼の群れだった。鬼たちは人の気配がすると言って次々に捕らえに来たが、どれも近寄れずに引き返し、ついに一匹が、尊勝真言がおいでになるからだと言うと、一斉に火を消して四方へ走り去った。若殿は西三条の家に戻って熱を出したが、やがて治った。乳母が兄弟の僧に書かせた尊勝陀羅尼が衣に縫い込んであったためだったという。
原典より
何者ぞご戸を細目に開て見れば早う人には非で鬼共也けり。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。