衛門の陣へ人を引く黒衣の鬼神
どんな伝承か
延長八年七月五日の夜、右近衛の下野長用が段富門から参内して武徳殿へ向かう途中、前を黒い衣を着て太刀を佩いた者が、人を捕まえて引き立てて行くのが見えた。長用が追いついて見ると、その者は振り返り、手に白いものを持っていた。やがて衛門の陣に着くと、陣の内から三位が一人出て来て迎え、供の者が火をともしていた。三位はその者を待っていたようで、ほかの話などしていた。火をともす者は摺衣を着ていた。長用は鬼神に違いないと恐れて引き返し、段富門のもとから先ほどの所を見ると、百あまりの火がともっていて、しばらくして消えたという。
原典より
延長八年七月五日、夜、右近衛下野長用、段富門よりまるりて武德殿に至る程に、さきにくろき物着て、太刀はきたる者、人をこらへてひこり行けり。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。