右近の陣に消えた三位と五位
どんな伝承か
延長八年六月二十五日、宇多院の随身が近衛の右近の陣のそばを通りかかると、三位が一人と五位が一人、従者に火をともさせて右近の陣へ入って行くのが見えた。ところが、実際にはそこには誰もいなかった。これも鬼のしわざではないかと世の人は恐れたと古今著聞集は伝える。著者は、侍の姿に化けて右近の陣に入るように見せかけた鬼もいたとして、この話を挙げている。
原典より
延長八年六月二十五日、宇多院の隨身近衛右近の陣をすぎけるに三位一人、五位一人、人に火をこもさせて右近の陣に入るこ見るほごに誠にはなかりけり。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。