千手院の大木に座す赤ら顔の天狗
どんな伝承か
甲子夜話の話。書き手の知る老医草庵が、根岸で上野の坊官吉川大蔵卿の母から聞いた話として伝える。七月十三日の前日の朝五つ時ごろ、御箪笥町の楽人東儀隼人佑の隣にある真言宗の大寺千手院で、境内の大木の枝の間に人が腰かけ、悠然としていた。その顔は赤く鼻が高く、世にいう天狗そのものの姿で、見た人々は大いに驚いた。最初に見つけたのは鵜川内膳という人の召使いで、その後数人が目にしたという。書き手は、これこそ本物の天狗だろうと記している。
原典より
その 顔赤く鼻高くして世に天狗こ謂ふものの如し。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。