革堂で見初めた一条河原の女房
どんな伝承か
ある蔵人の五位が、月の明るい夜に革堂へ参ったところ、たいそう美しい女房に出会った。見過ごせずに言い寄ると、女はそうした道にはかなわない身だとしきりに断った。それでもあきらめきれず、帰る女の後をつけていくと一条河原に至った。女は振り返って、玉みくりを詠み込んだ歌をひとり口ずさみ、浄人の家に入っていった。男は哀れにも不思議にも思ったという。著者は、浄人とは掃除人のことで一条河原の河原者を指し、歌は自分の身分をほのめかした隠語だろうと解している。
原典より
或藏人の五位、月隈なかりける夜革堂へ參りけるに、いこ美しけなる女房の一人參りあひたりける。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。