遊女屋に客として来た狐
どんな伝承か
甲子夜話に、寛政年間の長崎の遊女屋の珍事が載る。侍らしい三人連れが来て遊女を揚げ、宴のあと寝所に入ると、遊女は肌に何か毛のようなものが触れるのに気づき、探るとそれは客の体だった。素知らぬ顔で二階を下りて主人に告げ、主人や老婆、若い者が上がってみると寝具だけが残り、客の姿は消えていた。狐だろうと揚げ代の金を改めると別状はなかったが、座敷で老婆や若い者に配られた祝儀はすべて木の葉に変わっていた。遊女は、毛が触れたほかにも交わりの様子がいつもと違ったので気づいたと答え、皆が笑ったという。
原典より
宴すみ閨に入り臥したりしに、女の膚に何か毛のさはる様に覺えければ探り見るに客の身なり。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。