狐の蛻菴が書き写した般若心経
どんな伝承か
狐が字を書く話は多いが、書をよくした話は聞かないと著者は言う。その例外として挙げるのが、提醒紀談に見える蛻菴という狐である。蛻菴は飛騨の秀綱、ついで諏訪の千野兵庫に仕えたのち、岐組の興福寺という寺に身を寄せ、桂岳和尚のもとで副主を務めた。この寺にいた間に蛻菴が書き写した般若心経がその土地に今も伝わっていて、提醒紀談の著者はその模刻を人から贈られた。筆勢は古雅で、千年も前の写経と少しも変わらないと評している。
原典より
この脱着が書寫する般若心經、その地に傳へて今に在り。—— 動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。