増上寺の若僧に憑いた花崎狐
どんな伝承か
増上寺の寮に住む若い僧に狐が憑いた。狐は主僧に向かい、隣の屋敷の庭にあった小さな祠に住んでいたが、寮主に取り壊されて行き場を失ったと訴え、この庭に形ばかりの祠を建ててほしいと願った。素性を問われると、洛西久世の生まれで、数百年前にこの地へ来た花崎という者だと答える。額に掛ける名を自分で書けと言われ、手本があれば書くと応じたので、花崎社の三字を示すと、寮主よりはるかに達者な字で写してみせた。さらに朔日と十五日に一膳の飯を供えてほしい、自分は食わぬが眷属に施すのだと頼んだ。祠は建てられ、狐の書いた額は今も残ると伝わる。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
動物妖怪譚(日野巌・日野巌・動物妖怪譚・1926年(大正15年))
『動物妖怪譚』は、日野巌が大正六年に筆を起こし、大正十一年の跋と大正十五年の再記を添えて著した伝説の動物の研究書である。鬼・天狗・河童・人魚・雪女・龍・雷獣・狐・狸・獏・鯰・猫など二十六の項目を立て、記紀や万葉集から近世の随筆までの記事を原文の引用ごと示して起源と変遷をたどり、動物学の知識で正体を考える。總論で起原・歴史的変遷・分類などを論じ、結論では迷信から科学へ近づくことを説いて閉じる。