南無三宝と叫んだ徳水院の赤猫
どんな伝承か
増上寺の徳水院では、長年赤い猫を飼っていた。ある時この猫が梁の上で鼠を追い回していたが、どうしたはずみか足を踏み外し、鼠を取り逃がしたばかりか堂の床へどさりと落ちた。その拍子に南無三宝と大きな声を出したものだから、居合わせた人々は仰天する。さては猫またか、それにしても粗相な化けようだと騒ぎ立てると、猫はどこかへ逃げ去り、それきり姿を見せなかった。前の僧の一件と同じく元禄年中の出来事だと書き留められている。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪(早川純夫・早川純夫・妖怪史・1973年(昭和48年))
『日本の妖怪』は、早川純夫が一九七三年(昭和四十八年)に著した妖怪史の読み物である。『出雲風土記』『日本書紀』から『日本霊異記』『今昔物語』、江戸の『新著聞集』などの随筆までの古典に記された妖異を、かかわりのある実在の人物や事件とともに古代から近世へ時代順にたどる。全八章で、引用は意訳を交えて『』でくくり、仏教談や霊験談、地方の民話はおおむね除き、第七章には江戸の見聞録から選んだ二十話を並べる。