海上で消え先に帰っていた座元
どんな伝承か
寛政八年(1796年)の初夏、江戸伝馬町に住む旅役者の座元は、千葉・行徳での興行を終えて幾らかの利益を得たため、同座の者四人で海上に船を浮かべ酒宴を催した。ところが宴の半ばで座元の姿が忽然と消え、残った三人と船頭は海に落ちたのではと網を入れて捜したが遺体も見つからなかった。三人が江戸の座元宅へ知らせに向かうと近所に着いた途端に身の毛がよだつ恐ろしさに襲われたが、意を決して訪ねると、女房は「うちの人は今朝早く帰って来た」と平然と告げ、座元は既に二階で眠っていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪(早川純夫・早川純夫・妖怪史・1973年(昭和48年))
『日本の妖怪』は、早川純夫が一九七三年(昭和四十八年)に著した妖怪史の読み物である。『出雲風土記』『日本書紀』から『日本霊異記』『今昔物語』、江戸の『新著聞集』などの随筆までの古典に記された妖異を、かかわりのある実在の人物や事件とともに古代から近世へ時代順にたどる。全八章で、引用は意訳を交えて『』でくくり、仏教談や霊験談、地方の民話はおおむね除き、第七章には江戸の見聞録から選んだ二十話を並べる。