荒れ墓へ引き込もうとした遊女の霊
どんな伝承か
同じ今帰仁に、まるで『聊斎志異』にでもありそうな話が伝わっている。ある男が夜更けてから今泊部落のはずれを通ると、松の下に美しい女が立っていた。かねて男が思い焦がれていた女で、家が貧しいためズリ(遊女)に売られ、那覇の辻町にいた者である。誘われるまま淋しい野原の墓地へ行くと、草に覆われた荒れ墓の前で女は男の手を握り、穴の中へ引き入れようとした。近くの岡道を通る男女の唄声や三味の音が聞こえるのに誰も助けに来ず、男は疲れて引きずられ、まさに穴へ入ろうとしたとき夜が明けて女の姿はかき消えた。二、三日後、その女の死体が埋葬されたのは、男を引き込もうとした荒れ墓であったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。