五条の柿の木に現れた偽の仏
どんな伝承か
醍醐天皇の御代のことである。五条の道祖神のほこらのそばに大きな柿の木があり、その梢に、あるとき忽然と仏が姿を現した。何ともいえないまばゆい光を放ち、さまざまの花びらを降らせたりする。まことに尊いというので都中の評判となり、老若男女が拝もうと集まって、その辺は歩くこともできないほどの混雑となり、騒ぎは一週間近くも続いた。その頃、深草の天皇の皇子で光りの大臣という賢い人がこの噂を耳にし、まことの仏がこのような木の上に出現するはずはない、天狗などの異類が人をたぶらかしているのではないかと怪しんだ。そして正装し、びろう毛の車で供を従えてその木へ出向き、人々を払いのけて梢を見上げたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。