目黒から高松へ一夜で飛んだお庭番
どんな伝承か
明和年間のこと。江戸の讃州公の下屋敷でひとり勤番していた讃州生まれの庭番の若者が、郷里を懐かしんでいると、どこからか僧が現れて故郷へ帰りたくはないかと声をかけた。帰りたいと答えると、僧は目を閉じているよう命じて若者を小脇に抱え、矢のように空を飛んだ。ほどなく降り立ったのは若者の家の前で、僧はかき消えた。小用に出てきた父が驚いて蔵太郎ではないかと声をかけた。昼八つ過ぎに目黒の下屋敷を出て夜五つ過ぎには高松に着いたことになり、父はすぐ役所へ届け出たが、城代から江戸表へ伺いを立てた結果、何のおとがめもなかったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。