仏眼寺の僧に憑いた東山の天狗
どんな伝承か
京都の東山にある仏眼寺の僧、仁照阿闍梨のもとへ、七条あたりの金箔打ちの妻という三十過ぎの女がたびたび品を届けに通ってきた。ある日、ほかの僧が出払った隙をついて女は身を寄せ、思いを打ち明けて離れない。仁照は仏に許しを請うと偽って持仏堂へ入り、不動尊に念じながら数珠を揉みくだく勢いで祈った。すると女は見えない力に突き飛ばされ、狂い舞ったあげく柱に頭を打ちつけて助けを求めた。憑いていたのは東山の大白河に棲む天狗で、鈴の音も尊いこの僧を堕落させようと女に取り憑き、機をうかがっていたと白状したという。天狗が離れると女は夢からさめたように身なりを整えて帰り、二度と寺に姿を見せなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。