列車にひかれた桔梗原の玄蕃丞
どんな伝承か
鉄道が開通して間もない平和な山野で、夜、狐が汽車の音をまねて走るという話があった。中央線では、進行中の列車に化けた狐が機関手たちへ衝突の幻影を与え、幾度も肝を寒からしめたという。これを狸の怪とする土地もある。ある夜、汐尻と村井の間で疾走する列車に衝突して轢き殺されたのは、桔梗原の玄蕃丞という老狐であった。同じことは狐のオサクタテで有名な後藤野にも、宮城野の小牛田にも、栃木の那須野が原にもあり、どれも開通まもない頃の出来事である。夜行列車が驀進すると時ならぬ汽車が前方から火を吐いて来て、止まれば向こうも止まり、走れば動き出す。構わず突き進めば相手は消え、跡には古狐か狸が轢かれていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。