天狗の手紙を運び大火を免れた婆さ
どんな伝承か
上諏訪の山手にある岡村の南沢に、太郎兵衛婆さという老女が住んでいた。ある日、霧が峰近くの山へ薪を採りに行くと、どこからか天狗が現れた。婆さがおびえていると、天狗は懐から手紙を取り出し、向こうの山にいる天狗のもとへ届けてほしいと頼んだ。言われたとおり目を閉じると、体が軽く浮くように感じ、気づくと別の天狗の前にいた。その天狗は手紙を読み、上諏訪はいま火祭りの最中で大火事だが、お前の家だけは残しておいたと告げた。婆さが急いで戻ると村はすっかり焼けていたが、なぜか彼女の家だけは風向きが変わって焼け残っていたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
河童・天狗・妖怪――民俗随筆(武田静澄・武田静澄・民俗随筆・1956年(昭和31年))
『河童・天狗・妖怪――民俗随筆』は、武田静澄が昭和三十一年に著した民俗随筆である。天狗と神かくし、河童、座敷わらし、山の神と山の妖怪、狐狸とつきもの、水辺や海の亡霊、死霊と御霊などをめぐる伝承を、『今昔物語』などの古典の説話と各地の民俗の事例から集めて語る。短い見出しを立てた小文を連ねる形をとり、神かくしにあう心理や幻覚、お化けの心理にも触れて、妖怪を信じる心のはたらきを考える。