花園のピアノに響いたショパン
どんな伝承か
長野県諏訪市の宮本幸典さん(五十六歳)は、二十歳のとき風邪の注射を受けた直後に突然呼吸困難に陥り、体が胎児のように硬直していった。意識が薄れるなか、みごとな花の原っぱに立っており、寂しさを含みながらも暖かな陽ざしが降りそそいでいた。花園の彼方にはアズキ色のグランドピアノが輝き、弾き手のいないままショパンのノクターンが流れていた。我にかえる直前、その曲がエチュード『木枯し』に変わり、激しい旋律とともに意識を取り戻し、苦しい呼吸を繰り返していたという。
原典より
そして果てし無く広がる花園のかなたに、アズキ色の大きなグランドピアノが輝いているのです。—— 臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
臨死体験(立花隆)(立花隆・臨死体験・ノンフィクション)
『臨死体験(立花隆)』は、立花隆が著したノンフィクションである。一九九一年三月放送のNHKスペシャルのための取材を出発点に、日本と欧米の体験者の証言、キュブラー・ロスやムーディら研究者への聞き取り、「文藝春秋」連載中に寄せられた体験談を収める。体外離脱、光の体験、文化による体験の差、感覚遮断や脳の仕組みを章ごとに論じ、末尾で現実体験説と脳内現象説を比べたうえで、著者は基本的に脳内現象説に立つと述べる。