熊山の神仙の楽に混じった新仙の拙い音
どんな伝承か
備前の安仁神社の禰宜太美万彦は、盲目の女山形うめに連れられて熊山へ行き、神仙の奏でる音楽を何度も聴いていた。いつもは絶妙な楽なのに、ある夜は下手な音が混じっていたので、うめを通して神仙に尋ねると、近ごろ人間界から入った新しい仙人がまだ楽に慣れていないからで、その名は河野久、十四、五年前に仙境へ入った者だという答えだった。上京した万彦からこれを聞いた宮地厳夫が、生前の河野至道の経歴と書き物を示すと二人は大いに驚き、改めて伺うと、至道はいまも吉野の仙境に住み熊山とも行き来していると告げられた。
原典より
万彦もその門人の一人にて、しばしば熊山に連れ行かれてその音楽を聴きしこと数回であるとの話しでありました。—— 近代日本霊異実録(笠井鎮夫・霊異・神憑り実録・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
近代日本霊異実録(笠井鎮夫・霊異・神憑り実録・1966年(昭和41年))
『近代日本霊異実録』は、笠井鎮夫が著して昭和四十一年に昭森社から初版を出した、幕末から近代の神憑りと霊異の記録で、ここに収めるのは昭和四十八年に山雅房から出た複刻版である。金光教・黒住教・天理教・大本の教祖の神憑り、井上正鉄の求道、宮地常磐・堅磐父子や河野至道の神仙譚、天狗の弟子寅吉の話、長南年恵の奇跡などを、手記・写本・旧著を引いて語る。全十二録からなり、第一録には金光教に入信した著者の父の手記を収め、巻末にあとがきと著者略歴を置く。