鏡ガ沼へ嫁入りした大沼の主
どんな伝承か
針生の向山にある大沼には、娘の姿をした主が棲むといわれ、水鏡に向かって髪を梳く姿を村人が見かけることもあった。その主が那須岳三本槍の懐にある鏡ガ沼の主へ嫁ぐことになり、輿入れの晩には車の軋みや人のざわめきが南倉沢や野際の集落まで届いたという。のちに南倉沢の猟師大蔵が犬を連れて鏡ガ沼の近くへ狩りに出ると、沼のほとりで美しい女が髪を梳いていた。化け物と見た大蔵が魔除けの鉄弾を撃ち込むと、水は赤く染まり、立ちのぼった水柱が針生の方へ飛び去った。あたりは真の闇となり、大蔵は犬の尾につかまって迷い歩き、ようやく湯の湧く場所へたどり着いた。それが今の三斗小屋温泉だという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
田島町史 第4巻(民俗篇)――伝説(田島町(編)・田島町史)
『田島町史 第4巻(民俗篇)――伝説』は、会津の田島町の町史のうち民俗を扱う巻の、伝説を論じた節である。針生・糸沢・金井沢・折橋などに伝わる岩魚の棲まない沢、ダイタンボウの足跡、弘法清水、竜燈、天狗隠し、河童駒引き、アズキトギなどの伝説を、土地の言葉を交えた語りで載せる。自然伝説・歴史伝説・信仰伝説に分けて動物・地形・地名・人物・幽霊・妖怪変化などの項を立て、各話のあとに伝説の型や会津の類例を論じる。