夢で助けを呼んだ焼薬師
どんな伝承か
若杉区の納骨堂の上、高尾と呼ばれる尾根に薬師如来を祀る堂がある。この薬師は全身が焼けて顔もわからないほどになっている。ある夜、この薬師を信じて守っていた治右エ門と孫市の二人は、早く来てくれ、焼けてしまう、堂から出してくれと呼ぶ薬師の声を夢の中で聞き、飛び起きてそろって堂へ駆けつけた。堂はすでに炎に包まれていたが、二人は火をものともせず像を運び出し、谷川に浸して火を消した。ひと息ついた二人は顔を見合わせ、どちらも薬師の呼ぶ声を夢で聞いていたことを確かめ合った。そのときの焼け跡が今も残るという。のちに若杉で大火があり谷間の家がほとんど焼けたときも二人の家は焼け残り、薬師に守られたのだと考えた二人は、ますます篤く信じて堂を守り続けたという。霊験あらたかな薬師として、近ごろまで眼病の人が年の数だけ「め」の字を書いた祈願の紙を堂に貼っていた。
原典より
その時の焼け傷がそのまま今に残っているということであります。—— 篠栗町誌 民俗編――伝説・怪異(篠栗町(編)・篠栗町誌) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
篠栗町誌 民俗編――伝説・怪異(篠栗町(編)・篠栗町誌)
『篠栗町誌 民俗編――伝説・怪異』は、筑前の篠栗町の町誌民俗編から伝説の章を収めた部分である。鉾立山の玉依姫、若杉山の岩にまつわる弘法大師や鬼の伝承、薬師・地蔵・観音の霊験、平家岩や古井戸の言い伝えを番号つきの項で並べ、『筑前国続風土記』などの地誌や説明板の文を引く。後半では狐に化かされた話や狐憑き、狸の法座、巷の笑い話、若杉山の白蛇と杵蛇、河童の話を、古老の語りを交えて記す。