墓の中で息を吹き返した日雇いの男
どんな伝承か
寛政六年ごろ、江戸の芝あたりで日雇いをして暮らしていた男が、軽く患っただけであっけなく息を引き取った。念仏講の仲間が施主となって寺に葬ったが、二日後、墓参りに来た者が土の下からうめき声を聞きつけ、掘り返してみると男は生き返っていた。寺は寺社奉行へ、町方は町奉行の小田切土佐守へ届け出て身柄を引き取った。男に尋ねると、死んだ覚えなどまるでなく、京の祇園や大坂の道頓堀を歩き、東海道を戻る途中の大井川で路銀が尽きたが、川越しの人足たちが憐れんで渡してくれた、宿に着いたら真っ暗で何もわからなかった、と語ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本人物語5――秘められた世界(関敬吾(編)・日本人物語)
『日本人物語5――秘められた世界』は、日本人の暮らしの奥にある秘められた信仰や伝承を扱った叢書『日本人物語』の一冊である。境の神や通過儀礼を論じる序論に続き、入らず山や隠れ里、竜宮、平家谷、埋蔵金、生まれ代わり、あの世を見た話、魔法使い、生霊、秘密結社、狐憑きなどを、伝承と昭和三十年代までの新聞記事・見聞を織りまぜて述べる。序論「生活文化の秘密性――はじめに」の後、「奇蹟」「不気味な神々」などの区分の下に短い節を並べる。