鏡を使わなかった久延寺の無間の鐘
どんな伝承か
神仏の不思議の中には、寺社の縁起にまつわるものが多い。遠州の久延寺には無間の鏡の伝えがある。むかしこの寺で釣鐘を鋳たとき、タマという嫉妬深い女が鋳物の材料にと鏡を納めたが、寺はそれを使わなかった。そのせいか、この鐘の音を聞くと、この世では福を得ても、あの世では無間地獄に落ちるといわれるようになった。そこで鐘を壊して粟ヶ岳に埋め、一つの寺を建てたという。無間の鐘の話は江戸時代によく知られ、西鶴の『日本永代蔵』にも、佐夜の中山近くの観音で埋めた鐘のありかを尋ね、一代だけでも長者にと願う者の姿が描かれている。
原典より
そのためにかこの鐘の音を聞くと現世では福があっても、未来は無間地獄に落ちるというので、破壊して淡ヶ岳に埋め一寺を建立したというものである。—— 日本人物語5――秘められた世界(関敬吾(編)・日本人物語) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本人物語5――秘められた世界(関敬吾(編)・日本人物語)
『日本人物語5――秘められた世界』は、日本人の暮らしの奥にある秘められた信仰や伝承を扱った叢書『日本人物語』の一冊である。境の神や通過儀礼を論じる序論に続き、入らず山や隠れ里、竜宮、平家谷、埋蔵金、生まれ代わり、あの世を見た話、魔法使い、生霊、秘密結社、狐憑きなどを、伝承と昭和三十年代までの新聞記事・見聞を織りまぜて述べる。序論「生活文化の秘密性――はじめに」の後、「奇蹟」「不気味な神々」などの区分の下に短い節を並べる。