片子沢の沼に身を投げた安庭の娘
どんな伝承か
昔、出羽の羽黒山から毎年沢内街道を通ってこの地方に勧進に来る修験の若僧があった。この若僧は雫石の安庭の豪家に泊まるのが例で、あるときこの家の愛娘から恋慕の情を打ち明けられて困り、来年来たときに連れて帰ろうと宥めて帰った。翌年また迫られ、今度は同伴すると約束したものの、出家の身では女を連れられず、密かに家を逃れて立ち去った。娘は後を追って天沼に至り、南川の渡船場で舟を呼んだが、若僧が事情を告げて舟を渡すことを固く止めていたため渡してもらえず、憤怒のあまり川に飛び込んで向こう岸へ渡った。だが僧はすでに遠く、娘は薄情を恨み悲しんで、片子沢の沼に身を投げて死んだ。長者は沼の辺りに塚を築いて葬った。
原典より
昔、出羽の羽黒山から毎年毎年沢内街道を来て此地方に勧進して歩く修験の若僧があった。—— 日本伝説大系 第2巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第2巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第2巻』は、岩手・宮城・秋田の三県に伝わる伝説を話の型ごとに集めた伝説資料集である。山の争いや沼の主の手紙、巨人の足跡、八郎太郎、ザシキワラシ、河童、掃部長者などの伝説を、口承の聞き書きと近世以降の地誌・縁起から採る。凡例のとおり各項は伝承地を示した例話を冒頭に据え、〔類話〕〔文献〕〔参考〕を続け、柳田・高木による話型名を添えた項もある。