境川の堤をゆく火とぼしと天狗の火
どんな伝承か
天狗が夜に火をとばすという話は、この地方のいたる所にある。西境の豊三郎老人は、冬は鉄砲で山野の鳥獣を追い、夏は川や池で魚を捕って暮らしていた。この人によれば、境川上流で天狗の火が盛んに燃える夜は鰻がたくさん捕れ、そうでない夜は大したことがなかったので、天狗様が鰻を追ってくださるのだと信じていたという。天狗の点す火は大きく明るく、木の枝や葉の一つ一つがわかるほどだという。これに対し「火とぼし」は小さな火が一つ、提灯を提げて歩くようにふらふらと見え、声を立てると消えてしまう。大正の初めの晩秋のある朝、喜四郎さんが境川の土堤をゆく火を見て叫ぶと、火はたちまち消えたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第7巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第7巻』は、愛知・静岡・岐阜・長野の四県の伝説を集めた伝説資料集の一巻である。笠寺観音や日本武尊から天狗・山姥・八百比丘尼・夜叉ヶ池、石や池や塚の由来、白米城・一夜山まで九十七の項目を立て、口承を中心とする伝承を収める。各項目は伝承地を明記した例話を冒頭に置き、『日本伝説名彙』などの対応する題名を添えたうえで、〔類話〕〔参考〕〔文献〕を続けて近世以前の記録の原文まで示す。