水かえを咎めた赤池の主鯉右衛門
どんな伝承か
熊野郡の海士から油池へ行く途中に慈観橋がある。この橋から西南へ五十メートルばかりの所に赤池という溜池があり、池の水は地下を抜けて竹野郡俵野の丹池に通じているという。俵野の池に棒を投げ込んだ者がいたが、数日後その棒は赤池に浮いたといわれる。この池には大きな鯉が棲み、土地の者は鯉右衛門と呼んで池の主だと信じていた。昔、海士に住む某がこの主を捕えようと水をかい出すと、海士の家の方角に煙が上がり大火事になった。急ぎ戻ると火事の気配もない。再び引き返して水かえを始めると、また同じように火事になる。狐か狸の仕業だろうとかまわず続け、夕刻に村へ戻ると焼野原であった。村人はこれを鯉右衛門の祟りだと伝えている。
原典より
〈高木——「世田山鎮護の魔神」 柳田——「蛇ヶ淵」〉熊野郡の海士から油池へ行く途中に慈観橋がある。—— 日本伝説大系 第8巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第8巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第8巻』は、黄地百合子・酒向伸行・田中久夫が滋賀・京都・兵庫の三府県を分担して執筆し、福田晃がまとめた伝説集である。丹波の湖を神々が切り開いた国造りの話、神同士の争い、英雄や長者の盛衰、蛇と人の話、魚・鳥・石・塚・祠堂の由来などを、各地の口承や記載資料から集める。第一部「文化叙事伝説」と第二部「自然説明伝説」に分け、各話を例話・類話・文献・参考の順に並べ、高木敏雄・柳田国男の対応する話名を付す。