人魚を食べた乗原の千年びく
どんな伝承か
昔、この村に一人の坊さんが来て、此代の海から奇妙な魚を拾ってきた。胸から上は人間のようで腰から下は鱗の生えた魚だったので、庚申待に皆で食おうといっても誰も箸を出さなかった。大久保喜兵衛の娘の子が一口食べると、その身は柘榴のように甘酸っぱく、これまでにない美味さだったという。その娘は病気一つせず体も大きくなり、貰い手がなかった。親も兄弟も村中の者も死ぬのに若い娘のまま年を取らず、乗原にいるのがつらくなって但馬へ行った。やがて乗原へ戻り、依遅ヶ尾から落ちた石を寄せて庚申墓の辺りから植松まで道を敷き、植松の大きな松も植えた。八百年余り生きたので千年びくと呼ばれ、最後は若狭へ一人船で出たきりだという。
原典より
〈高木―「弁慶島」 柳田―「比丘尼谷」〉昔、この村にー、ひとーりのぼんさんがやってきただげな。—— 日本伝説大系 第8巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第8巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第8巻』は、黄地百合子・酒向伸行・田中久夫が滋賀・京都・兵庫の三府県を分担して執筆し、福田晃がまとめた伝説集である。丹波の湖を神々が切り開いた国造りの話、神同士の争い、英雄や長者の盛衰、蛇と人の話、魚・鳥・石・塚・祠堂の由来などを、各地の口承や記載資料から集める。第一部「文化叙事伝説」と第二部「自然説明伝説」に分け、各話を例話・類話・文献・参考の順に並べ、高木敏雄・柳田国男の対応する話名を付す。