鉈を返せと泣く声の聞こえる淵
どんな伝承か
昔、村内有数の豪農の家に心優しい娘がいた。娘は継母によく仕えたが、継母は事ごとに辛く当たった。ある日、娘が西河内川との合流点の淵の上の林へ柴刈りに行き、腰を下ろして鉈を側に置くと、鉈はするすると滑り、吸われるように淵へ沈んだ。帰宅すると継母は「仕事をいとうて鉈を捨てた」と誤解して口汚く叱り、追放した。娘はさまよったすえ、ついにこの淵に沈んだ。その後この淵の周辺で鉈を手放すと、鉈は生き物のように淵へ滑り込み、やがて「鉈をかえせ」と訴え、次に「違う、これではない」と泣き叫ぶ声が聞こえるという。今もここでは鉈を手放すことを禁じている。
原典より
〈柳田―「鎌ヶ淵」〉昔、村内有数の豪農の某家に心優しい娘がいた。—— 日本伝説大系 第8巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第8巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第8巻』は、黄地百合子・酒向伸行・田中久夫が滋賀・京都・兵庫の三府県を分担して執筆し、福田晃がまとめた伝説集である。丹波の湖を神々が切り開いた国造りの話、神同士の争い、英雄や長者の盛衰、蛇と人の話、魚・鳥・石・塚・祠堂の由来などを、各地の口承や記載資料から集める。第一部「文化叙事伝説」と第二部「自然説明伝説」に分け、各話を例話・類話・文献・参考の順に並べ、高木敏雄・柳田国男の対応する話名を付す。