未明の国道429号に続くシカの群れ
どんな伝承か
平成二十年代前半のある日、著者は兵庫県宍粟市千種町から同市波賀町斉木に至る国道429号を、未明から薄暮にかけて走った。山中をぬう道で交通量は昼でも少なく、山を越すあいだ一台の車とも出会わなかった。その代わり、三〇頭を軽く超すシカを目撃した。千種を出はずれる前から民家や畑のわきを悠々と歩く姿が目につき、車のライトが当たるたびに目がぴかりと光った。短い峠では四、五頭の群れもいた。斉木の先の国道29号では、車にはねられた大きなオスジカが死んでいた。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
村の奇譚 ― 里の遺風(筒井功・民俗・地誌・2018年(平成30年))
『村の奇譚 ― 里の遺風』は、民俗研究者の筒井功が平成三十年に著した民俗探訪記である。修験の里の石室、石風呂と焼き石湯、山中の贋金づくり、箕作りの集団や天幕部落、岩窟に暮らした非定住民、猿と猟師、氷室と風穴、産屋、墓制、安倍晴明の墓、狐憑きと犬神など、各地の村に残る習俗と伝承を、聞き取りと文献の両面からたどる。全十三章で、昭和三十年前後の高知市での見聞から説き起こし、「おわりに」では別の出版社で刊行が見送られた経緯を記す。