尾を見られて去った信太の狐女房
どんな伝承か
信太郷中村の庄屋屋敷内に千枝の楠があり、聖神社の末社である若御前宮が祀られ、狐穴が沢山あった。信濃国更級郡から三人の男が西国三十三ヶ所の巡礼に出て伯太にさしかかると、石橋の下に隠れた女がいた。訳を尋ねると、自分は信太の者だが夫に愛されず婚家を出奔し、追手かと見誤って隠れたと答えた。巡礼はこの女を巡礼姿に変えて信濃へ連れ帰り、うち一人の更級郡の地侍高梨殿が妻に迎え、三人の男子を生んだ。九年目のある日、三歳の末子が母の昼寝姿に尻尾が出ているのを見て父に告げた。問われた妻は「恋しくは尋ね来てみよ我やどは信太の森のうらみ葛の葉」の一首を短冊に残して出奔した。末子は母の姓信田を名のり、故地の信太へ来て母の行方を尋ね、狐の埋葬地に塚を築き堂を建てて供養した。この堂を信濃堂といったと伝える。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第9巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第9巻』は、日本伝説大系編集委員会が編んだ伝説資料集の一巻である。三重・奈良・和歌山・大阪の各地に伝わる伝説を、三輪山・安珍清姫・弘法清水・油掛け地蔵など百余りの話型ごとに集める。各話型は例話を冒頭に据えて『日本伝説名彙』などとの対応を示し、〔類話〕に伝承地と出典つきの梗概を並べ、〔文献〕に近世以前の史料の原文を添えて補う構成をとる。