隠し丸で退けた柏木の化け猫
どんな伝承か
伯母峰の一本足の正体は古猫であったとの伝えもある。峠から北へ一〇キロメートルほどの柏木という在所に、栄造という鉄砲のきわめて上手な猟師がいた。ある夜、鉄砲玉を鋳ていると、かたわらの飼猫がそのたびに玉に触れている。隣室の老母がこれを見咎め、隠し丸を忘れず持ってゆけと注意した。隠し丸は名号を刻んだ玉で、必ず命中するが猟師一代に一度しか使えない。栄造は三〇個の玉と隠し丸を携え、果ての二十日に伯母峰の山奥へ入った。日中にわかに暗くなって山鳴りがし、家の飼猫が古猫の姿で現れた。撃っても手ごたえがなく玉を撃ち尽くしたところで猫が飛びかかろうとしたので、最後の隠し丸を放つと、猫はうなりながら山奥へ逃げ込んだ。栄造はその日限り猟師をやめ、鉄砲は村の守りとして庄屋に預けられた。毎年果ての二十日に取り出すと、その日に限って汗をかいているという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第9巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第9巻』は、日本伝説大系編集委員会が編んだ伝説資料集の一巻である。三重・奈良・和歌山・大阪の各地に伝わる伝説を、三輪山・安珍清姫・弘法清水・油掛け地蔵など百余りの話型ごとに集める。各話型は例話を冒頭に据えて『日本伝説名彙』などとの対応を示し、〔類話〕に伝承地と出典つきの梗概を並べ、〔文献〕に近世以前の史料の原文を添えて補う構成をとる。