母を阻んだ火の雨と袈裟石
どんな伝承か
弘法大師の母は高野の霊場をひとたび踏みたいと願い、はるばる山の下まで来た。大師は出迎え、この山は女人の来るべき地ではないと繰り返し諫めたが、母は聞き入れない。そこで大師は、どうしても登るというならこれを越えよと言って、袈裟を石に掛けた。この石を今も袈裟石と呼ぶ。母が越えようとした途端、雲が覆い、山谷が震動し、火の雨の中に大龍が現れて一歩も進めない。母は驚き、宿世の罪を嘆いて傍らの石をねじった。これをねじ石という。大師は秘文を誦し、右手で大盤石を押し上げて母を覆ったといい、その手形は今も岩面に残る。母が号泣した淵を涙川、火の雨の降った所を焼尾と呼ぶ。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第9巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第9巻』は、日本伝説大系編集委員会が編んだ伝説資料集の一巻である。三重・奈良・和歌山・大阪の各地に伝わる伝説を、三輪山・安珍清姫・弘法清水・油掛け地蔵など百余りの話型ごとに集める。各話型は例話を冒頭に据えて『日本伝説名彙』などとの対応を示し、〔類話〕に伝承地と出典つきの梗概を並べ、〔文献〕に近世以前の史料の原文を添えて補う構成をとる。