恋の一念で大蛇と化した種
どんな伝承か
昔、法美郡の国府宮の下に稲常という住人がおり、種という一人娘がいた。娘は十五の春、同じ郡の絲谷寺の塔供養に父母と参り、そこで類まれな美僧を見て深く恋い慕った。言い出すこともできず思いは病となり、食も進まず痩せ衰えて臥せる。父母は医も祈禱も尽くしたが験がなく、ついに摩尼寺へ連れて行き別当の法印に頼んだ。法印は持仏堂で密咒を唱えて娘の心を鑑に映し、この子は一念の邪執により生きながら異類の身を受けた、後ろの池へ入れよと告げる。娘はたちまち大蛇と化し、風雨と雷を呼んで池へ飛び入り姿を消したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第11巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第11巻』は、山陰の鳥取・島根両県の伝説を集めた日本伝説大系の一巻である。矮姫による穀物の伝来、大山の山くらべ、伯耆の白兎、雲州皿屋敷、七尋女房、牛鬼、隠岐の後鳥羽上皇などを、伝承地を明記した口承の例話で示し、類話と近世以降の文献を添える。「文化叙事伝説」「自然説明伝説」の部に分けて話ごとに番号を付し、凡例のとおり例話・類話・文献・参考の順に並べ、多くの話に高木・柳田による伝説名を添える。