松の根元に葬られた雌雄の狸
どんな伝承か
墨田区に伝わる話である。里の人々がひどく恐れる妖しい狸がいた。悪魔を降そうと御堂を建てるために樹齢数百年の松を伐り払ったところ、夜ごと怪しいものが現れ、砂や石を落とす音を立てて工事を妨げた。ある夜ついに異形の姿を見せ、住僧に立ち退かねば害すると迫った。鑽海和尚が毘沙門天の名を唱えると御童子が現れて妖怪を打ち据え、悪魔は退散した。夜が明けると雌雄二匹の大きな狸が死んでいた。和尚はこれを憐れみ、狸が棲みなれた松の根元に埋めて狸塚とし、ねんごろに弔ったという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。