引き上げられぬ鐘ヶ淵の釣鐘
どんな伝承か
鐘ヶ淵は紡績会社のあたりを指す。昔この淵に釣鐘が落ち、引き上げることができないまま放っておかれ、ついに淵の主となって水底にあるという。水神が惜しんで手放さないのだと里では語られた。落ちた鐘については、千葉家の城があったころの祈願所普門院が豊島郡石浜から亀戸町へ替地を賜り、荷を舟で運ぶ途中に取り落としたものだとも、水死者が多いので漁師が供養のために沈めたものだともいう。享保の末、隅田川御成の折に引き上げよと命が下り、数百人がかりで綱を数十本かけたが、鐘は水草をまとって横たわり竜頭が光るばかりで、綱はみな切れて動かなかった。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本伝説大系 第5巻(日本伝説大系編集委員会・日本伝説大系(みずうみ書房))
『日本伝説大系 第5巻』は、叢書「日本伝説大系」の一巻をなす伝説資料集である。埼玉・千葉・東京・神奈川・山梨の伝説を扱い、二つの太陽、蹴裂明神、ダイダラボッチ、平将門、源頼朝、豪徳寺の招き猫、黒塚、山の背競べ、親捨てなどの話ごとに、口承を重んじて選んだ例話を掲げる。各項は例話に〔類話〕〔文献〕〔参考〕を添え、類話は伝承地ごとに梗概で示し、文献は近世以後の史料を原文で抄出し、柳田・高木の分類による話型名を併記する。