熱田の宮の轡の音と信長の偽りの神託
どんな伝承か
稲村ヶ崎の宝剣伝説を新田義貞の演出と見る説に続けて、著者が引き合いに出す織田信長の逸話である。桶狭間で今川義元を迎え撃つ際、信長は熱田の宮の神官にひそかに頼んで社殿の奥で馬の轡を鳴らさせ、これこそ自分を助ける神のお告げだと叫んで兵を奮い立たせたという。さらに、投げた銭がすべて表を見せれば必ず勝つと言い、表と裏を貼り合わせた一文銭を投げてみせたとも伝わる。著者は、こうした子供だましのような振る舞いも義貞の故事にならったものだろうと推し量っている。
原典より
後世、織田信長が桶狭間に今川義元を迎え撃ったとき、熱田の宮で、ひそかに神官に頼んで社殿の奥で馬の轡を鳴らしてもらい…—— 神奈川の史実と伝説(小森良章・1975年(昭和50年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
神奈川の史実と伝説(小森良章・1975年(昭和50年))
『神奈川の史実と伝説』は、新聞記者から県政の仕事に転じた小森良章が昭和五十年に著した郷土史の読み物である。倭建命の東征から鎌倉幕府の滅亡までを範囲に、神奈川県内に残る伝説を十一の篇にまとめ、走水の弟橘姫や足柄山の金太郎などを取り上げる。各篇は伝承地を副題に掲げ、伝説とその背景にある史実を結びつけて語り、古事記や吾妻鏡などの記録を引きながら著者の推測も交えている。