灰で敵を欺いた忍城下忍門の綱引松
どんな伝承か
綱引松は、忍城の下忍門の塁壁の上に立っていた松である。『北武八志』によれば、天正十八年の忍城水攻めのとき、城方はこの松に綱を結んで門扉を吊り、その上に馬を立たせて灰をまき、城内はまだ乾いていて水に困っていないように敵に見せかけたことから、この名が付いたという。一方『行田史譚』の森尾津一は、四抱えもある傾いた大木で、明治元年二月に官軍が押し寄せる一か月ほど前、風もない夜に突然折れ、人々は大名の潰れる前兆だと噂したと記す。森尾はまた、水攻めの話は敵に丸見えの場所ゆえ作り話であり、実際は小正月の年占として村境で綱引きをした占木ではないかと述べている。
原典より
綱引松は下忍門の塁壁上にあった。—— 埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 上(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成――分類と解説 上』は、韮塚一三郎が埼玉県内の伝説を類型ごとに集めて編んだ伝説集の上巻である。片目の魚、化かす狐や狸、松・杉などの樹木、石や岩、ダイダラ坊と山、清水・渕・池・井戸にまつわる県内各地の伝説を、郷土誌や地誌、『埼玉史談』などの文献と、地元の資料提供者や話者の報告から採って収める。各話に所在地と出典を添え、話型ごとに〈解説〉を置いて全国の類例と信仰の背景を論じ、[参考]文献を挙げる。