白い獣に追われた道心者と狸川
どんな伝承か
小石川の猫また橋のあたりでは昔、夜ごとに狸が赤い手拭いをかぶって踊るという話が子どもたちの間に伝わっていた。大塚のほうに住む少々愚かな道心者が、巣鴨のあたりで食事に招かれた帰り道、ススキや刈萱の茂る心細い夕暮れの道で、後ろから白い獣がついて来るのに気づいた。これこそ噂の狸だと思い込み、息の続く限り逃げたところ、この川に転げ落ちてずぶ濡れになった。どうにか庵へ帰り着いた道心者は、今夜あの話の狸に出くわしたと人に語った。それから誰言うともなくこの川を狸川と呼び、橋をねこまた橋と呼ぶようになったという。
原典より
此川にころび入りて、身のさま水にひたし、かろうじて庵に歸り、愚僧こそ今宵かの物語の狸に逢たりと語る、それより誰いふとなく狸川といひ、ねこまた橋といふとぞ。—— 江戸傳説(佐藤隆三) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
江戸傳説(佐藤隆三)
『江戸傳説』は、佐藤隆三が著した江戸と東京の伝説集である。将門の首塚、番町皿屋敷、お玉ヶ池、置てけ堀、縁切榎、矢口渡など、市中と近郊の塚・池・坂・井戸・寺社にまつわる由来譚や、化け狐・猫又の怪異を、『江戸名所図会』『将門記』などの記録を引きつつ語る。目次に四十の項を番号順に並べ、口絵の図絵と目次番号に対応した伝説分布図を添え、巻末に資料参考書目を付す。