沈む日を扇で招いた蕨長者の没落
どんな伝承か
高篠山の中腹に長者屋敷跡という平地があり、秩父の長者が住んでいたという。三代目の長者はおごり高ぶり、ある春、千軒の家来に秩父中の蕨を採り尽くせと命じ、自分の家族百人は高篠山を受け持った。ところが高篠山には蕨が山いっぱいに生え、日暮れまでに半分も採れない。長者が日の丸の扇で沈む日を招くと太陽は中天に戻り、家来たちは蕨を採り尽くした。採り残しは高篠山へ飛んで生え、再び日が傾いても扇は効かず、扇を振るたびに家族が消え、最後には長者も屋敷も消えて蕨だけが茂っていたという。
原典より
長者は驚いて、わが家に立ち帰り、日の丸の扇をあげて、今やまさに沈もうとする太陽をさしまねいた。—— 埼玉県伝説集成——分類と解説 中(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 中(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成——分類と解説 中』は、韮塚一三郎が編んだ埼玉県の伝説集の中巻で、上中下三巻のうち歴史伝説を収める。地名・屋敷・家系・聖地・城や堤や橋・神仏・神体と宝物・偉業・事件と紛争の九章に分け、県内各地の伝説を『新篇武蔵風土記稿』などの文献と土地の人からの聞き取りによって集めている。一話ごとに所在地と出典または資料提供者を記し、同じ類型の話をまとめた後に柳田国男らの説を引く〈解説〉を置く。