巡礼の娘を沈めた姿の池と入れ入れ地蔵
どんな伝承か
秩父郡横瀬村の、秩父の町に近い山あいに姿の池という用水池がある。昔、村の百姓たちが田を開くために総出で堤を築いたが、水を入れようとするたびに水の力で崩れ、何度やり直しても同じだった。九分どおりできた堤がまた一夜で切れたとき、絶望した人びとの前を巡礼の娘が通りかかり、誰からともなく人柱にせよという声が上がって、娘は泣いて訴える間もなく堤の底に埋められた。それから工事は無事に終わったが、池には若い女の身投げが絶えず、村人は娘を弔って池のほとりに地蔵を建てた。それでも数年おきに身投げが続くので、この地蔵は入れ入れ地蔵と呼ばれるようになったという。
原典より
こうして、泣き叫ぶ巡礼は、涙の哀訴をきかれる暇もなく、永遠の恨みと、のろいと、悲しみを残して、遂にこの池の人柱となって、堤の底深く沈められていったのである。—— 埼玉県伝説集成——分類と解説 中(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
埼玉県伝説集成——分類と解説 中(韮塚一三郎・埼玉県伝説集成)
『埼玉県伝説集成——分類と解説 中』は、韮塚一三郎が編んだ埼玉県の伝説集の中巻で、上中下三巻のうち歴史伝説を収める。地名・屋敷・家系・聖地・城や堤や橋・神仏・神体と宝物・偉業・事件と紛争の九章に分け、県内各地の伝説を『新篇武蔵風土記稿』などの文献と土地の人からの聞き取りによって集めている。一話ごとに所在地と出典または資料提供者を記し、同じ類型の話をまとめた後に柳田国男らの説を引く〈解説〉を置く。