伊良湖崎に流れ寄る椰子の実
どんな伝承か
明治三十年の夏、大学二年生だった柳田は三河の伊良湖崎の突端にひと月あまり滞在した。毎朝、村の南の砂丘を越えて岬の先の魚付林をひと回りするのを日課にしていたが、浜には立ち止まって見ずにいられない寄物が多かった。小山の裾を東へ回った先の、舟の出入りにあまり使われない砂浜で、風の静まった翌朝などに椰子の実が流れ着いているのを三度見たという。一つは割れて白い果肉がのぞき、二つは皮に包まれたままだった。遠い波路を越えて新しい姿のまま届いたことに柳田は驚き、帰京して島崎藤村にこの話をした。藤村の椰子の実の詩はその年のうちに作られたものらしい。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第1巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第1巻』は、柳田国男の著作を集めた著作集の一巻である。椰子の実の漂着から日本人の渡来と稲作を海の道に求める論考と、海神宮考・みろくの船・根の國の話・寶貝のこと・稻の産屋などの諸篇、大正期の南島旅行に基づく『海南小記』、昭和二十六年八月の自序をもつ『島の人生』を収める。いずれも海と島を舞台に、ニライカナイや宝貝、漂着や島の復興をめぐる民俗と歴史を論じている。