前沢の町の座頭正保と早物語
どんな伝承か
前沢の町には正保というボサマが住んでいて、菅江真澄と折々同席して話をした。一通りは歌も詠み、真澄が松前へ立つ前には送別の吟を寄せている。冬籠りの奥羽の村では、以前は座頭は欠くべからざる刺激機関であった。殊に正月もやや末になって、再び炉の側の沈黙が始まろうとする頃には、若い者や小児は堪えかねてボサマの訪問を待った。盲人は弟子を連れて来て、一曲のあとにはいわゆる早物語を語らせた。愛嬌のあるボサマたちは、折々自分でこしらえた世間話や、由緒ある昔話をしたという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第2巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第2巻』は、柳田国男の紀行と旅の随筆を収めた著作集の一巻である。昭和三年一月の自序に続く「雪国の春」や菅江真澄の日記を読み解く文をはじめ、東北の村々の正月、火と炭、浜の暮らしの見聞、「秋風帖」「東国古道記」、昭和十五年十一月の自序を持つ「豆の葉と太陽」などの紀行を並べる。峠や古道、佐渡・五箇山・熊野などの土地を、住む人の暮らしと信仰から見ようとする文が多い。