碁の音と思えば榛の実を咬む音
どんな伝承か
真澄は湯の台という寒村で、言いようもないあばら屋に一宿した。ところが夜が深くなるまで板戸の向こうで、ぱちぱちと碁を打つ音がする。こんな山村に意外なたしなみだと思って、後でよく見ると、それは家の小児が寝ながらハシバミの実を咬む音であった。雪の飽田根には、このような微細な観察が数限りなく拾える。真澄の文章には屡々微笑を催すような滑稽があって、それがこの古風な描写法に始終活気を与えているのである。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第3巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第3巻』は、柳田国男の紀行・日記・随筆を集めた著作集の一巻である。相模・武蔵の村々を歩いた「水曜手帖」、昭和二十三年八月の自序を持つ「北国紀行」、明治四十三年の「五十年前の伊豆日記」、国際聯盟の委任統治委員会に勤めた大正十一年の「瑞西日記」と「ジュネーブの思ひ出 その他」を収める。後半の「菅江真澄」は昭和十七年二月の序を付け、真澄の著述と旅の跡を年を追ってたどり、写真解説を添える。