吉野奥で山小屋に塩を乞う
どんな伝承か
山中で漂泊して生きるうえで最も不可能に思えるのは火食の問題だが、孤独な山人には火を使った形跡がなく、虫や魚や木の実を生で食べていたという話は多い。塩はどうするかという疑問も疑問にならない、と柳田はいう。日本の山中には塩分を含む泉が多く、食物にも塩気を補うものがあり、長年の習性で需要を減らせたからである。その例として、吉野の奥で山に逃げ込んだ平地の人が山小屋に塩を乞いに来て、一握りの塩を喜んで受け取り、これだけあれば何年かは大丈夫だと言ったという話が、『羈旅漫録』あたりに見えていたと記す。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。