越前杉谷・堂ヶ谷で袖五郎が見た大男
どんな伝承か
越前丹生郡三方村大字杉谷の勝木袖五郎という、今は五十余りの男が十二三歳の頃のことである。秋の末に枯木を取りに村の山へ行くと、友だちは欺いて皆ほかへ行ってしまい、一人で村の白山神社の片脇の堂ヶ谷という所で木を拾っていた。ふと見ると目の前のくぬぎの木に凭れて大男の毛脛が立っており、見上げると目の届かぬほど丈が高い。恐ろしくて我が家の背戸口まで走り帰り、振り返るとその大男はもとの場所に立ち、凄まじい眼でじっとこちらを見ていたので、そのとき正気を失ったという。堂ヶ谷は宮にも民家にも近い低い山である。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。