岩木山中で大人に運ばれた九助
どんな伝承か
中村沢目蘆谷村というのは岩木山の麓にあって、田畠も多くないので、炭を焼き薪を樵って生計の助けとしていた。この里の九助が斧を携えて山に入り、二里ばかりも登ると、見たこともない広漠とした平地に出た。道に迷ったと悟って佇んでいると、谷蔭に人語が聞こえたので降りて見やった。身の丈七八尺ほどの大男が二人、岩根の苔を摘み取っている。背と腰には木の葉を綴ったものを纏い、面構えは色黒く、眼は円く鼻はひしげ、蓬頭で鬚が伸びていた。かねて赤倉に住むと聞いた大人かと逃げようとして石に躓き、かえって大人の傍に倒れた。大人は九助を抱えて嶮岨を駆け下り、地上に下ろすと姿を消したという。
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
定本柳田国男集 第4巻(柳田国男・定本柳田国男集)
『定本柳田国男集 第4巻』は、柳田国男の著作を集めた定本の一巻である。岩手県遠野の伝承を佐々木鏡石から聞いて書いた「遠野物語」、山に入った人や神隠しを論じた「山の人生」、河童・ひだる神・一つ目小僧・天狗などを扱い妖怪名彙を付す「妖怪談義」を収める。ほかに「山人考」「史料としての傳説」「比丘尼石の話」「山人外傳資料」「『イタカ』及び『サンカ』」「山民の生活」など、山人・漂泊民・妖怪をめぐる論考を併せる。