娘に憑いた小蛇を斬った永平寺の僧
どんな伝承か
越前国福井の里の長者富次郎には、器量よしで心優しく、詩歌にも秀でた一人娘がいた。二月の末、庭を歩く娘の後を一匹の小蛇がつきまとい、閉め切った部屋の中にまで入り込む。家の者が遠い谷に捨てても、打ち殺して捨てても、翌日にはまた枕元に戻ってくるので、娘はおびえてやせ衰え、明日をも知れぬ身となった。父は諸寺諸社に祈祷を頼み山伏にもすがり、母は食を断って祈ったが、効き目はなかった。翌年の初春、永平寺の僧と名のる気高い僧が訪れ、娘を歩かせて後を追う蛇を木刀で敷居に押さえつけた。蛇が木刀に食らいついた一瞬に、僧は小刀で首を斬り落とし、それきり蛇は現れず、娘は回復したという。
原典より
蛇の首は、かたく木刀に喰いついたまま胴体は二、三尺先に飛んだ。—— 日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年)) より引用地図で位置を見る
※伝承地の場所は必ずしも正確ではありません
出典の文献について
日本の妖怪伝説(小笠好恵・1966年(昭和41年))
『日本の妖怪伝説』は、小笠好恵が各地に伝わる奇談・怪談を読み物にまとめた伝説集で、序は昭和四十一年五月付である。浅茅が原の一つ家、四谷怪談、九尾の狐、安達が原の黒塚、道成寺、鍋島の化け猫など、岩手から熊本までの四十五話を、伝えられた形をなるべく崩さずに書き直し、おおむね東から西へ並べる。雨月物語や小泉八雲など書物に拠る話のほか近年の体験談も混じり、一部の話の末にはゆかりの寺社へ行く「順路」を付ける。